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生理学(統合生理学)

研究室紹介

 当教室は、1978年4月、瀬戸勝男初代教授の着任により第一生理学教室として開設されました。瀬戸教授は斉藤英郎助教授の協力を得て、研究と教育の両面において魅力ある教室となるように尽力されました。1992年5月に瀬戸教授が副学長に就任したため、1993年4月に樋口隆二代目教授が着任しました。1997年7月に樋口教授が福井医科大学に転出したため、1997年12月に椛秀人三代目教授が着任しました。2003年4月の講座再編により統合生理学教室に改名されましたが、2006年4月、循環制御学教室(旧第二生理)とともに開設時の生理学講座に戻り、それぞれ生理学講座(統合生理学)、生理学講座(循環制御学)となりました。2016年4月、椛教授の定年退官とともに山口正洋四代目教授が着任し現在に至っています。椛教授からの伝統を引き継いで、記憶、学習、絆、情動、神経可塑性、神経新生など、高次神経機能の解明を目指し、嗅覚系を主な対象として研究を行っています。

研究内容

 脳はとても複雑な臓器ですが、動物が環境に応じて行動し生存機会を高めるために進化を遂げてきました。動物が日々変化する環境をどのように知って適切な行動を選択するかを理解することは、脳の本質に迫る重要なアプローチです。私たちは、動物が「どのように外界を知るのか」という感覚系の働き、「どのように行動を選択するのか」という行動系の働き、そしてこれらが「状況に対応してどのように変化するのか」という脳の可塑性機構に、嗅覚系を主なモデル系として取り組んでいます。嗅覚系は我々の感情、情動を動かして、行動を左右する根源的な感覚です。この系の持つ潜在能力を最大限に生かし、環境に応じて行動を選択する脳の可塑性機構や感情、情動、個体間の絆など心のメカニズムの解明を目指しています。生きた個体や脳スライスの電気生理学的解析、イメージング、光・化学遺伝学、組織・分子レベルの解析など、幅広い手法を駆使しています。

1.匂いの情動行動を学習する神経回路機構の解明
 嗅覚は感覚入力が行動出力に直結する感覚系ですが、嗅覚行動は強い情動やモチベーションによって駆動されています。匂いに対して誘引される場合にはそれを好ましく思って求めようとする情動・モチベーションが、匂いを忌避する場合にはそれを嫌って避けようとする情動・モチベーションが働いており、これらの情動行動の多くは個体の経験によって新しく学習されています。
 私たちは、新たな匂いの情動行動が、どの神経回路にどのような可塑的変化が起こって獲得されるかに興味を持っています。実際に行動中のマウスの嗅球、嗅皮質など嗅覚系の様々な領域の電気活動を記録して、各領域の情報処理機構、また領域間の情報のやりとりが情動行動の学習につれてどのように変化するかを検討し、感覚入力から情動行動に至る神経回路の可塑性メカニズムの解明を目指しています。

2. 新しく生まれる神経細胞の組み込み機構の解明
 嗅覚系の際立った特徴の一つに、大人になっても新しい神経細胞が生まれている点が挙げられます(成体脳の神経新生)。通常大人の脳では新しい神経細胞は生まれませんが、嗅覚系の一次中枢である嗅球では新しい神経細胞が常に神経回路に組み込まれており、嗅覚系の高い可塑性に寄与しています。私たちは嗅球の新しい神経細胞の回路への組み込みが、末梢からの匂い入力と、上位中枢である嗅皮質からの中枢性入力の2つのシナプス入力の相互作用によって制御されていることを明らかにしてきました。2つのシナプス入力がどのように新しい神経細胞で統合されてその組み込みを制御するのかという細胞分子機構、また中枢性入力がどのような情報を担っているのかというシナプス入力の生物学的意義の解明を目指しています。ウイルスを用いた細胞標識や機能分子発現、光・化学遺伝学を用いたシナプス入力制御などの手法を導入して解析を進めています。この知見は神経細胞の再生・移植医療の発展に大きく貢献するものです。

3. フェロモン記憶に伴う神経回路変化の解明
 学習記憶という脳の高次機能が、どの様な機構によって行われているかという問題は、脳科学のみならず神経生物学において大変興味深い問題です。当研究室では学習記憶の神経機構を解明するため、交尾刺激を契機として雌マウスに形成される雄の匂いの記憶(フェロモン記憶)をモデルシステムとして用いてきました。そして、このフェロモン記憶が副嗅球(鋤鼻系の最初の中継部位)に生ずるシナプスの可塑的変化によって支えられていることを、形態学的および行動学的アプローチにより明らかにしてきました。
 それらに続く研究として、フェロモン記憶に伴う神経回路変化を個々の細胞レベルで解析することを目指しています。具体的には、副嗅球内の主要神経回路の一つである僧帽細胞−顆粒細胞間シナプスに着目し、この神経回路がフェロモン記憶の有無によりどう変化するのかを、電気生理学的手法やCa2+イメージングを用いて解析しています。さらに、その神経回路変化に関わる機能分子(タンパク合成酵素等)の解明も試みています。

4. 個体(系統)認識機構の解明
 個体から多種多様な化学物質が分泌されており、その中には個体を特徴づけるものが存在しています。げっ歯類では、個体から分泌された揮発性分子や不揮発性ペプチドが同種の他個体の嗅上皮や鋤鼻器の感覚細胞で受容され、系統、性、生殖状態、遺伝的性質といった特定の情報をコードするための媒体として機能しています。しかし、個体認識の手掛りとなる物質として同定されたものは、MHCクラスIペプチドリガンド、Major Urinary Protein (MUP) など、ごくわずかしかありません。本研究では、近交系マウスに認められる系統特異的な妊娠阻止現象(ブルース効果)を指標に系統(野生マウスでは個体)認識の手掛りとなる新規の物質を探索するとともに、系統認識に帰結する脳内機構の解明を目指しています。

5. 食行動を支える神経機構の解明
 食は生命を支える基本であると同時に、我々に大きな生きる喜びを与えてくれます。幼少期の食経験はその人の食習慣を生涯に渡って左右することが指摘されており、また高齢者にとって食が健康の維持や生活の彩りに占める位置は極めて大きいものです。食行動のメカニズムを理解することは我々の健康的で喜びに満ちた生活に大きく寄与すると考えられます。私たちはマウスを用いた研究から、食行動は嗅覚に大きく依存しており、匂いによって「食べたい」というモチベーションが働く際に嗅皮質の1領域である「嗅結節」の特定の領域が活性化することを明らかにしてきました。この機能領域の作る神経回路構造、発達機構、食経験に基づく可塑性機構などの基礎的理解を進めながら、ヒトにおける同様の機能領域の理解、食に関する様々な病態の科学的理解を視野に入れて研究を発展させていきたいと考えています。

スタッフ紹介

教 授:山口 正洋 〈研究者総覧へ〉
准教授:谷口 睦男 〈研究者総覧へ〉
助 教:村田 芳博 〈研究者総覧へ〉
助 教:越智 経浩 〈研究者総覧へ〉
特任教授:椛 秀人〈研究者総覧へ〉
高知大学医学部 生理学講座

高知大学医学部 生理学(統合生理学)
http://www.kochi-ms.ac.jp/~ff_phsl1/

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