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感染症は極めて普遍的にみられる疾病であり、世界の年間死亡者の約3分の1を占めます。20世紀半ば、抗生物質実用化の成功により、細菌感染症は制圧されたかに思われました。しかし近年、ほとんどの病原細菌において抗菌薬耐性化が進行し、治療上の深刻な問題となっています。ウイルスに関しても、1980年、ポックスウイルス感染による天然痘の根絶宣言が出された後も、HIV、SARSコロナウイルスといった人類とって大きな脅威になる新たなウイルスが出現し、そして今、世界は新型インフルエンザウイルスのパンデミックに震撼させられています。相次ぐ新興・再興を繰り返す感染症をいかに制御するかは、「安心・安全な社会の構築」にとって克服すべき重大な問題です。
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微生物感染は発癌にも密接に関与します。本邦における死亡原因の一番は悪性新生物であることは周知の通りです。ただ、そのヒト悪性腫瘍全体のおよそ20~25%はウイルスや細菌などの微生物が起因となっていることに驚かれる方も多いでしょう。Epstein-Barr
virus(EBV)と悪性リンパ腫や胃癌、ヒトヘルペスウイルス8(Human
herpes virus 8: HHV-8)と悪性リンパ腫やカポジ肉腫、Human
T-cell leukemia virus I(HTLV-I)と成人T細胞白血病(ATL)、肝炎ウイルス(Hepatitis
B virus: HBV、Hepatitis
C virus: HCV)と肝癌、ヒトパピローマウイルス(Human
Papilloma virus: HPV)と子宮頸癌、そしてHelicobacter
pyloriと胃癌など、列挙に暇がありません。さらに2008年には新たなヒト腫瘍ウイルスであるMerkel
cell
polyomavirus(MCPyV)の発見がScience誌に発表され、話題になっています。またHIV感染症には特定の悪性腫瘍の合併頻度が高いこともよく知られた事実です。微生物感染による慢性炎症・免疫異常が悪性腫瘍を惹起していることは間違いないと思われます。今後さらに微生物が関与する腫瘍カテゴリーは拡大していくであろうと予想されます。
黄色ブドウ球菌や緑膿菌をはじめとした病原細菌の多剤耐性化が進行する中、従来の抗菌薬で制御困難な難治性細菌感染症が深刻化しています。その一方で、新たなクラスの抗菌薬の開発は進んでおらず、既存の抗菌薬に代わる新たな治療法開発の必要に迫られています。このような状況の下、本講座ではバクテリオファージに注目してきました。バクテリオファージ(ファージ)は細菌のみに特異的に感染し、細菌を破壊するウイルスです。我々はこれを細菌感染症の治療・予防への応用を目指し研究を重ねています。ファージは地球上で最も豊富に存在する微生物とされており、自然環境に無尽蔵に存在する天然の抗菌リソースとしての可能性を追求しています。ファージを利用した抗菌薬非依存性細菌感染症制御法(ファージ療法)の研究は現在世界中で進められていますが、現在のところ我が国の大学医学部では、ファージ療法の研究をおこなっているのは高知大学医学部微生物学講座のみであり、将来性のあるユニークな研究として注目されています。実際に、米国ではFDAがリステリア菌感染症予防のためのファージを食品添加物として認可しています。本講座ではファージ療法の臨床導入への“夢”に向けて研究を行なっています。
以上述べてきましたように、難治性微生物感染に対する新たな制御法の開発と微生物感染による腫瘍化メカニズムの解明は、研究者に課せられた大きな使命であります。このような考えに基づき、本講座の主要研究テーマは、「微生物感染と発癌」「バクテリオファージ療法」に大別しています。さらに腫瘍ウイルスとも関連して「造血器腫瘍の病態解明」「癌転移メカニズムの解明」にも取り組んでいます。
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教育に関する本講座の基本指針は、将来の臨床医として備えるべき「実践的な感染症学の教育」です。微生物学はウイルス・細菌など病原微生物の感染様式や病因的役割を追求する学問であると同時に、臨床における感染症学の基礎科学としての性質を持っています。基礎医学の領域にとどまらず、臨床医学に密接に関係している学問であり、微生物学≒感染症学でなければいけないと考えます。さらに近年の新興・再興感染症の多発により感染症教育の重要性が叫ばれています。したがって、自身の内科医としての経験を踏まえ、学部学生には、常に臨床を意識した微生物学・感染症学の講義をするように心がけています。感染症はさまざまな臓器・部位に起こりうるものです。医学科学生には、将来どの診療科に進まれても感染症の知識は必要不可欠であるとの認識を持って、よき医療の担い手として活躍されることを期待しています。
大学院生(博士課程、修士課程)に対しては研究基礎技術の修練と、討論を行ないながらテーマに沿った質の高い研究の完遂を目指します。また学位取得者で希望者にはICD(Infection
Control
Doctor)資格習得に向けた指導を行ないます。ICDとはICD制度協議会が認定する感染制御の専門的知識を有するエキスパートのことで、医師もしくは感染症関連分野のPhDの学位を有していることが要求されます。
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私は長らく内科医として、血液内科・感染症内科・呼吸器内科を専攻しておりましたが、腫瘍ウイルスの研究を行なっていた関係で、3代目の教授として本講座を主宰させていただく機会を得ました。高知大学医学部は伝統的にウイルス研究が熱心なところであります。私の恩師であります三好勇夫
高知大学名誉教授は、ATLの原因がHTLV-I感染であることを発見され、ウイルスがヒトに白血病を起こすことを初めて証明されました。私はこの三好先生の業績により「ウイルス」に魅せられ、「ウイルス」の世界に足を踏み入れることになりました。また本学の小児思春期医学講座においてもEBVの研究が盛んに行なわれており、臨床・基礎医学の両面から共同研究を積極的に推進しています。自身内科医であり、研究者でもあり、教育者という「三役」を使いこなしながら、感染症の病態とその治療に対する新たな一面を追求していきたいと考えています。
本講座は感染症分野の研究にとどまらず、腫瘍学・血液学の研究も幅広く行なっています。病原微生物学、感染制御学、さらには腫瘍学に精通する優れた医師、研究者を目指す多くの学生諸君(大学院生、学部学生)の参加を期待しています。出身学部は医学部に限らず、他学部出身者も大歓迎です。気軽に連絡して下さい。
高知大学医学部
微生物学講座
教授 大畑 雅典
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