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不寛容な時代に世界へ向けて

高知大学麻酔科学講座 教授 横山 正尚 写真

故郷・高知へ赴任して早くも9年目を迎えました。昨年は会長として高知で日本臨床麻酔学会を3,000人ほどの参加者を集めて開催することができました。研究面では教室員が日本の麻酔科学関連の最高賞である山村賞を受賞することもでき、大学院生の増加と共に研究成果は確実に充実してきました。教育面では最優秀指導医賞の獲得をはじめ常に高い評価を受け、先端医療学コースの人気はトップクラスです。臨床面ではハイブリット手術室の完成と共に手術室での症例はますます増加し、12床のICUを24時間体制で麻酔科医が管理するシステムも構築できました。外勤先病院数は大きく増加し、常勤病院として県立安芸病院に加え、高知日赤病院に教室員を派遣でき、幡多けんみん病院との人員交流が本格化しました。赴任直後から掲げてきた、大学病院としての研究、教育、臨床の3本柱が確実に形となって見えてきたことはうれしい限りです。

この先、残された大きな課題は世界に向けての人材を作ることかと思っています。幸いなことに、複数の麻酔関連の大きな学会で国際交流委員長を務めさせて頂き、世界麻酔会議の教育委員会にも日本の代表として参加させてもらっています。そのおかげか、世界各国の代表や研究者とも交流が進み、高知の教室に何人もの世界的権威の麻酔科学関係者を特別講演で招くこともできました。留学の目途が数施設との間でつき、来年には国外から臨床研修留学生を受け入れる予定です。そして、2019年4月にはアジア・オセアニア地区の麻酔関連学会を大会長として高知の地で再び開催することも決まりました。教室のHPのトップにある「南国高知から世界へ」の実現に向けて、さらに進んでいきます。

一方、現実世界は残念ながら、今まさに大きな岐路に立っていることも事実です。民族、宗教、文化、それらへの寛容さが消え去り、グローバル化が生み出したバーチャル世界の暴走で、格差だけが表に見え、「不寛容な」怒りだけが渦巻こうとしています。海外渡航や海外研究者との出会いで初めて気づかされることがあります。考え方や文化の違いは、直接対話し、そして体験することで「少しだけ」理解に近づけます。この「少しだけ」が非常に重要で、触れあっても理解できないことは多くあるけれど、相手を理解する一歩は、まず相手の文化や生活に興味を持つことでしか始まりません。逆はどうでしょうか。世界は日本をどう見ているのでしょうか?不寛容な時代は、他者に対しても自己に対しても興味の無さ、あるいは興味の無い「ふり」を示します。しかし、いつまでもその「ふり」は続けられないことを、日本は鎖国という世界でも希な政策で体験しています。まさに龍馬がそれを打ち壊しました。

今こそ、われわれは島国の知恵を世界に発信しなければなりません。狭い土地、狭い家の中で他者を思いやりながら、いかに暮らしてきたか、文化そのものを伝えなければなりません。その伝承者を育てる義務をつくづく感じます。若い世代が外の世界、他者に無関心だと良く聞きますが、彼らはネット世代で私より遙かに世界につながっているし、外を見ています。見ることと興味を持つことは全く違いますが、見ないよりはずっとましです。外を見ていても興味が無ければ、何もしません。興味を持つにはどうするか、意識の変革です。意識の変革には教育と体験です。まず体験するチャンスを多く作ること。それが私に残された数年の大きな仕事であると感じています。眠っている資質を伸ばし、個性を浮き上がらせることが任務との思いです。外の世界を体験して、人は初めて他者の現実を理解できます。龍馬を育てたこの地で、今、不寛容な時代に世界に向けてできることは、世界を見ることの楽しさを伝えることかと強く感じるこの頃です。

2017年10月12日 麻酔科学・集中治療医学講座 教授
横山正尚

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