教授挨拶 | 高知大学医学部皮膚科学講座

教授挨拶

  • English
  • 日本語

教授挨拶

高知大学医学部皮膚科学講座教授 佐野栄紀

私、佐野栄紀(さのしげとし)は平成19年4月1日に高知大学医学部皮膚科学講座の3代目教授に就任いたしました。

今後はこの教室を新進のサイエンスに基づく、理論的でかつやる気の溢れた力強い集団にしていきたいと思います。

目標

我々高知大学皮膚科は、地域皮膚科診療の核となり高水準の医療を提供します。患者さんに「高知にいて良かった!」と思われるよう全力を尽くします。研究では、土佐ブランドの臨床研究、基礎研究で世界と勝負します。国境のないサイエンス探求においても、祖国を背負う気持ちは忘れません。負ける気がしません。

若い医学者・入局希望の方へ

皮膚は体の一番外側で体の中を守る最前線の臓器であるとともに、様々な内的状態が、スクリーンの上に映し出されるように表現される「場」でもあります。皮膚疾患には余りに沢山の病名があり、また必ずしも体系付けられておらず、その発症機序が分からないものがほとんどと言って過言ではありません。遺伝的、環境的要因などいろんな要素によって構成される、トータルな病的状態が複雑に絡み合っている結果として「皮膚に見えてくる」ことが多く、実に奥深い臨床領域でもあります。
最近20年、分子生物学的解析などにより驚くべき新たな発見があり、いくつかの皮膚科疾患の機序がわかってきました。我々は、マウスを用いた皮膚疾患モデルを用いた研究をしています。これらは、臨床へフィードバックできる素晴らしいツールでもあります。
突破口は、必ずしも権威ではなくむしろアマチュアの柔らかく若い頭で、どうしてこんな形の皮膚病が出来るのだろうか?と不思議に思うところから開きます。分子生物学、免疫学、遺伝学など最先端の知識と技術をツールとして活用するのは言うまでもありません。
繰り返しますが、皮膚病は糖尿病や脳腫瘍とは違って、目に明らかです。逆説的に言えば見えすぎるから見えないのかも知れません。しかし決して諦めずに見ようとすることが皮膚科の進歩には必要です。その進歩のためには、やる気のある若いパワーの結集が必要です。明るく自由闊達でワイルドな土佐の気風をうけて、若い頭脳を結集し日本そして世界に冠たる土佐人のパワーを見せ付けるのが私の夢です。
我々とともに楽しく苦労を共にしてくれる若い学生・医学者諸君を求めます。龍馬のように日本を、世界を変えましょう!頂上は雲の中ですが、上に歩けば必ず頂上が見えてくるでしょう。

高知発の世界基準となりうる新たな取り組み

1. 乾癬

高知大発の治療法

乾癬は、湿疹とは異なる炎症性皮膚疾患で表皮の角化を伴います。欧米に多く最近本邦でも増加傾向にあります。2010年より、抗TNF抗体などの生物学的製剤が保険適用となり、治療戦略にパラダイムシフトが起こりました。高知県内ではここ高知大学病院と医療センターが生物学的製剤の使用基準を満たす施設として認定されて、多くの患者さんがこの恩恵を受けています。さらに、我々は乾癬の病変部にシグナル分子であるスタット3が活性化している事実を世界で初めて発見しました。

そこで、スタット3の働きを阻害出来る薬剤で乾癬が治療できるか確かめるために、新規にスタット3の阻害機能が明らかになった抗生物質STA21を用いて臨床研究を行いました。その結果、予想通り約7割の患者で効果がありました。これ以外に、現在では多くの分子標的薬が開発されつつあります。我々は乾癬とほぼ同様の症状を呈するモデルマウスを開発しました。これを用いて、新たな治療薬の開発やスクリーニングに役立てています。ご期待下さい。

参考文献
  • Sano S, et al. Nat Med, 11: 43-49, 2005
  • Miyoshi K, et al. J Invest Dermatol,131: 108-117, 2011
  • Nakajima K, et al. J Immunol, 186: 4481-4489, 2011
  • Miyoshi K, et al. J Dermato Sci, 65: 70-72, 2012

メタボリックシンドロームとしての乾癬

乾癬の患者さんは肥満、高血圧などのいわゆるメタボリックシンドロームの合併率が高いことは、以前より知られていました。
我々は、乾癬の患者さんにおいてメタボリックシンドロームを評価するパラメータ(例えばBMI、腹囲、血清脂質、脂肪細胞から分泌されるサイトカインなど)を患者さん毎に計測し統計処理を行い、より客観的にメタボリックシンドロームと乾癬の関連を研究しています。
皮膚だけではなく、内分泌代謝系と密接に関係して乾癬がおこることを明らかにして、新しい発見をもとに患者さんに還元できれば幸いです。

参考文献
  • Nakajima H, et al. J Dermato Sci, 60: 45-47, 2010
  • Nakajima H, et al. Arch Dermatol Res, 303: 451-455, 2011
  • Nakajima H, et al. Arch Dermatol Res, 304: 81-84, 2012

関節症性乾癬の早期診断法

関節症性乾癬は乾癬の一亜型ですが、難治なことも多く関節変形をきたすとQOL(生活の質)が著しく障害されます。ほとんどの関節症性乾癬は乾癬から移行します。
最近使用できるようになった生物学的製剤のおかげで、皮膚症状のみならず関節症状をコントロールすることが可能になりました。そのためには、乾癬患者が関節症性乾癬へと移行するか否かを早期に診断し、治療を開始するwindow of opportunityの時期を見定めることが必須です。
我々は、最近FDP-PET/CTを用いた画像診断で、関節症状をより早期から診断できることを明らかにしました。

参考文献
  • Takata T, et al. J Dermatol Sci, 64: 144-147, 2011

2.皮膚癌

高知県を始め日本の南西部には紫外線による皮膚癌が多発しています。
とくに年長者に発症する紫外線発癌およびその表在性癌(日光角化症)はこの高知において頻発し、まさに風土病の様相を呈しているといっても過言ではありません。
これは気候や緯度の要素によるものばかりでなく、地方においては若者の流出にともなって年長者が戸外で就業することが多いためかも知れません。

顔面など露光部に多発するため患者のquality of life (QOL) を損ねるばかりでなく、放置すると深部組織への進展、内臓への遠隔転移も起こり得る生命予後に関わる重大な疾患です。高齢化社会へ進む日本において、紫外線による皮膚発癌罹病率上昇が社会全体の問題になりうるとも危惧されています。
日光角化症は一見湿疹と区別が付きません。早い段階でこの日光角化症を発見し治療をすることが我々皮膚科医に課せられた使命の1つです。

可能であれば手術を行いますが、数が多い場合は最近イミキモドという免疫賦活作用をもつ軟膏を用いて完全治癒することが可能となりました。

KORTUC(Kochi Oxydol-Radiation Therapy for Unresectable Carcinomas)法を用いた新規治療法

我が高知大医学部放射線科の小川教授が開始された画期的な放射線療法です。テレビ、新聞などでも取り上げられ、高知発の燦然と輝く(これがまさにKORTUC=光沢?)金字塔であります。
我々皮膚科もいままでに小川先生チームと連携し、皮膚癌に対しKORTUC療法を行い、大変良好な成績を得ております。
体表の癌に特に利用価値が高い方法ですので皮膚癌治療に対してこの方法が世界基準になるであろうと期待します。

参考文献
  • Ogawa Y, et al. Int J Oncol, 39: 553-560, 2011
  • Ogawa Y, et al. Oncol Rep, 19: 1389-1394, 2008

WT1療法を用いた新規治療法

癌細胞は正常細胞と違い細胞表面に癌に特別な癌抗原を発現しています。
WT1もその1つで、多種の臓器の癌に広く発現することより、このWT1を標的とした免疫療法が我が高知大学免疫学の宇高教授らによって開発されました。
高知大学病院でも臨床研究がすすみ、泌尿器の癌を始め色々な癌で有効性が報告されています。
皮膚科も今後はメラノーマなど免疫原性が高い癌に対してこの免疫療法を検討していきたいと思います。

3.アトピー性皮膚炎

皮膚のバリア機能が悪いと、外界の有害な物質、アレルギーを起こす物質などが皮膚をそのまま通過しやすく、体内に入ってきやすいことでアレルギーを起こしやすくなります。
これは、従来アトピー性皮膚炎が体の内部にそもそもあるアトピー素因が皮膚にでるものだという考えとは逆に、皮膚のバリアが悪いためにアトピー性皮膚炎になりやすい、という考え方です。

アトピー性皮膚炎のみならず気管支喘息でも皮膚バリア機能が悪い患者さんが多いということが証明されています。我々はアトピー専門外来で、皮膚のバリア機能と湿疹の症状の関連を調べております。

これにより、アトピー性皮膚炎の患者さんひとりひとりの生活環境と皮膚バリア状態をモニターすることで、よりオーダーメイド的で細やかな生活指導、治療を行います。

4.膠原病

膠原病は種類も多く疾患概念も非常に複雑です。皮膚科をはじめ複数診療科の横断的な協力が必須です。我々は強皮症の患者さんの治療効果を判定するためエラストグラフィーを装着した皮膚エコーを導入いたしました。
これを用いて皮膚の硬度、弾力性の評価を行い、客観的な治療効果を数値化できるか検討中です。また、膠原病外来では、きめ細かい治療と生活指導を行っています。

メカニズムの真理にせまるため膠原病マウスを使った研究も進行中です。

以上、現時点における高知大学医学部皮膚科の取り組みを申し上げました。
まだまだやるべきことは山積しています。どんな疾患にも原因があり、治療法があるはずです。しかし皮膚病は原因が不明で治療法も確立していないものが多いのも事実です。
しかし我々は決して諦めず、これらの病因、悪化要因を明らかにすることで新たな治療法が生み出されると信じます。土佐魂は世界を救います!