第一外科 心得10か条

「仕事は仲間を作る」 というゲーテの格言があります。平成18年4月に新しい仲間を求めて高知に参りました。 教室運営におけるこれまでの反省と今後の希望を込めて 「高知大学外科1 心得10か条」 を提唱します。
1.
「早起き」
をしよう
昔から「早起きは三文の得」と言われています。つまり早起きしてやった仕事は様々なメリットがあるということです。特に朝食の前にやる仕事は捗るようです(朝飯前)。早朝はnegative思考が消えて、positive 思考になります。また夜間に比べて、頭も冴えていますので、論文を読んだり、書いたりする「学術的作業の時間」に向いているのも事実です。本格的な診療時間や公務に入る前の独り占めができる貴重で贅沢な時間帯とも言えます。習慣となれば皆さんの苦手な英語論文の作成も「朝飯前(あさめしまえ)」になりますよ。ちなみに私の米国留学時代のボスは午前3時から仕事を開始していました。
2.
「お礼」
を言おう
感謝の気持ちを相手に伝えることが人間関係を良好にする秘訣です。具体的には講演会の懇親会でご一緒したら「礼状」を書きましょう。また論文の別冊をいただいたら、「お礼」を言いましょう。こうした積み重ねが信用を作っていきます。「人生は一引き、二引き、三に引き」です。人から引き上げていただかなかったら、どんなに才能のある人も埋もれてしまいます。自分を引き上げてくれた人には謝辞を述べ、誠意を尽くすことが大切です。また「お礼」を言えば自分も相手も気持ち良く一日が過ごせます。
3.
「プロ意識」
を持とう
小さい頃から「世の中の役に立つ人間になろう」という夢を持って医師になった人はけして少なくないはずです。その道の大家と言われる人の共通点はプロ意識(プロとしてのプライド)を持って仕事に打ち込んでいることです。自分の仕事に誇りを持って、手を抜かないで、完璧を目指してとことん努力しています。だからこそカリスマ性も生まれ、天運も味方してくれるのかもしれません。どうかプロ意識を持って仕事に取り組んでください。プロ意識を持って仕事をした人とそうでない人との間には将来大きな差が生まれます。
4.
「コップ」
を洗おう
人間は汚い場所にいると集中力が落ちる動物だそうです。職場環境も同じです。いい仕事をしたかったら職場をきれいにして、集中して仕事に向かうことです。いい仕事をするためにきれいな職場環境を自ら創出しましょう。自分が飲んだお茶やコーヒーのコップは自分の手で洗いましょう。そうした小さな行為の積み重ねで教室は徐々にきれいになっていきます。その第一歩としてまず自分の手でコップを洗うことから始めてください。
5.
「入念な準備」
をしよう
物事を成功させるためには入念な準備が必要です。何事も「備えあれば憂いなし」です。人の生死に直面する外科医は最悪の事態を想定する能力が求められます。すなわち、手術する前には画像検査所見や血液検査データを頭に叩き込んでおくだけでなく、不測の事態も想定した術中のイメージトレーニングとそれに必要な手術器具の準備を怠らないことです。この入念な準備が成功の鍵といえます。天才といわれた長嶋茂雄でさえも、日本プロ野球史上最も有名なシーンを演出した天覧試合の前夜は、バットを自分の枕元において祈りながら眠りに付いたそうです。患者さんのために入念な準備を怠らない外科医になって下さい。
6.
「丁寧な手術」
をしよう
術中の出血量をできるだけ少なくするために、丁寧な手術を心がけましょう。外科医は時間が早い手術を目指すのではなく、出血量の少ない手術を目指しましょう。それが患者さんの予後向上にも直結します。手術が雑になってきたと感じたら、「急がば回れ」「気は心」という言葉をつぶやくと良いでしょう。
7.
「カルテ」
を書こう
医療訴訟に巻き込まれない最も有効な手段は「患者さんやご家族への説明をきちんとして、その内容を正確にカルテに記載すること」です。カルテを書く習慣を身につけることは患者さんのためだけでなく、あなたのためにもなり、まさに一石二鳥です。
8.
「プレゼンテーション」
を大事にしよう
プレゼンテーション(以下プレゼン)が上手になるコツは、プレゼンの機会をたくさん持つことです。プレゼンは自分の言いたい内容を相手にわかりやすく伝える能力(いわゆるcommunication能力)が養われるだけでなく、いいプレゼンをするためには、患者さんから正確な情報を得る必要がありますから、「しっかり患者さんを診る」ようにもなります。その結果、患者さんとの信頼関係も深まり、医療訴訟もグッと減ります。またプレゼンが上手になれば学会発表も積極的に行うようになりますし、学会発表で鍛えられれば、更にプレゼン能力に磨きがかかります。すなわち相乗効果が期待できます。このようにプレゼン上手になることはいい事ずくめなのです。教授回診や手術前のカンファレンスにおけるプレゼンを疎かにせずに、日頃から場数を踏んでいくことが肝要です。
9.
「研究」
を楽しもう
研究は臨床の疑問点の解明や新知見を明らかにするために行うものですから、どんな結果が出るのだろうという「ワクワク感」が伴います。この「ワクワク感」を味わえることが研究の醍醐味です。私は時代の風潮を追いかける短期の研究よりもライフワーク的な研究が好きで、10年単位で研究を行うことを推奨しています。研究は楽しみながら「気長にやること」です。研究が楽しめるようになったら、あなたも研究者の仲間入りです。
10.
「英語論文」
を書こう
外科医は筆不精の人が多いのは事実です。ただし、書くことは最も頭の働きを良くする行為だそうです。「すべての研究は英語論文で完結する」が教室の目標です。英語論文を書く方策は拙著「英語論文の書き方」という小冊子にまとめて教室員全員に配布しましたので参考にしてください。「人生いろいろ、教室員もいろいろ」で、1編も英語論文を書いていてくれない教室員もいれば、3年ほどで20編以上もプレゼントしてくれた教室員もいます。英語論文は高知から直接世界への扉をあなたのために開いてくれる魔法の鍵だと思ってください。英語論文を書いている人には将来必ずチャンスが訪れます。
組織の統制を保持するためには、指導者へのLoyaltyとその指導方針に沿って忠実に活動することが求められます。しかし、更に発展させるためには優れた人材の育成が不可欠となります。そのためには「仲良しクラブ」ではない、本当の意味での競争力を持った、どこに出しても恥ずかしくないプロ集団を作り上げていきたいと思っています。将来の教室を担うエースピッチャーと4番バッターを発掘し、育成することは私に課せられた大きな使命といえそうです。