科研費獲得の意義と申請書の書き方

高知大学外科1教授 花﨑和弘

はじめに

 昔から「科研費申請書は(難しくて)書けん」といわれ、競争的研究資金を獲得するのはなかなか大変でした。それでも以前は、講座研究費という形で一定の研究費が外科教室にも手当てされていました。私自身も信州大学時代の学位研究は、所属教室から相当額の研究費を割り当てられ、本人にやる気さえあれば、しっかり研究できる環境であったと記憶しています。ご存知のように、法人化後、運営交付金は毎年1%ずつ削減され、当然のことながら各講座への研究費の割り当ても年々減少しています。
 現在は、「学位よりも専門医」という時代です。専門医はしかるべきシステムに乗っかれば、受け身でも獲得できます。一方、学位研究をはじめとする研究はゼロからのスタートですので、能動的に取り組まないと達成できないという困難を伴います。しかも科研費に代表される競争的研究資金に支えられながら、研究を行うスタイルが主流になってきている今日では、われわれ外科医をはじめとする臨床家にとって研究開始までに乗り越えなければならないハードルは益々高くなり、昨今の臨床家の研究離れを招いている要因にもなっています。
 本稿は、教室員の皆さんを対象にして、競争的研究資金の獲得を目指して、科研費に焦点を当てながら、科研費獲得の意義と申請書の書き方について概説します。他の競争的資金獲得についても通用する手法だと自負しています。来年の春に科研費が採択されたい方は是非ともご一読ください。

科研費獲得の意義

 これについては科研費のホームページhttp://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/の中に「~エッセイ~私と科研費」という欄があります。これを参照するのが最も刺激になるだけでなく、勉強にもなります。その理由は、このエッセイを書いている人たちは、科研費をはじめとする多額の競争的研究資金を獲得した豊富な経験を有する我が国を代表する著名な研究者たちばかりだからです。特筆すべきはノーベル賞受賞者のエッセイとして、創刊(No.1)は小林誠教授、No.70は山中伸弥教授、No.77は大隅良典教授、No.105は梶田隆章教授が登場しています。すなわちノーベル賞級の研究も科研費が支えてきたのです。科研費獲得の意義はそうした著名な研究者を支え、我が国の科学研究を推進してきた実績から判断しても大きいと言わざるを得ません。本エッセイの拝読をお勧めします。
 研究は医学の発展に貢献するための新しいエビデンスを創出する最も社会的貢献度の高い、崇高なものと位置付けられています。研究を介して未知への遭遇を果たした場合は、大変な困難を伴うと同時に、「知的好奇心を満たす」かけがえのない時間も共有できます。そうした貴重な研究を行うために必要な科研費を獲得するためには、応募研究者の中から採択(種別にもよるが採択率は25%くらい)される申請書を作成しなければなりません。科研費は、公正な審査を経て研究費をいただける方式を採用しており、しっかりした申請書さえ提出すれば、旧帝大や有名大学に所属する研究者だけでなく、われわれ地方大学の研究者にとっても競争的資金が獲得できる大変有難い制度といえます。

申請書の書き方

1) 研究したいテーマを決める
 まずは何を研究したいのか?その問題を解決したらどんな未来が待っているのか?ワクワクするような研究テーマを考えましょう。テーマの中に「独創的○○」「革新的○○」「○○の開発」「○○の応用展開」という類のいわゆる審査員の心を掴むような用語を入れることは可能でしょうか?そうしたactiveな用語を挿入できる研究テーマは申請者の「熱意」が伝わり、審査員受けが良くなります。また科研費申請に不慣れな研究者は、教室の得意とする研究テーマを選ぶことを推奨します。当科の場合はこれまで世界に先駆けて実績(英語論文や特別講演も多い)を積み重ねてきた以下の研究テーマはいかがでしょうか?身近に指導者もいて相談しやすいと思います。
  • 人工膵臓関連
  • 光線医療関連
  • 漢方の薬物動態試験関連
  • 新規医療機器(腸音モニターなど)関連
  • 切除標本などを使用した他の基礎研究教室との共同研究(これまでの実績として仲教授、降幡教授、佐藤教授らのラボとの共同研究) 特に最後の基礎研究教室との共同研究は斬新なアイデアをいただける可能性が高いため、科研費獲得のために推奨したい方法です。

2) 分担者としての共同研究者を充実させる
 最初から手術の上手な外科医がいないのと同様に、最初から優れた研究者はいません。だから科研費申請書を書く際は、科研費獲得経験のあるベテラン研究者を分担者に加えましょう。いろんなアドバイスをいただけるはずです。また優れた基礎研究者との交流は科研費獲得において大変有意義な結果を生みやすいのは上述した通りです。

3) わかりやすい文章を心がける
 よく言われることですが、申請書は素人が読んでも理解できるわかりやすい文章で作成するように心がけましょう。またフォントを変えると見栄えが良くなります(例えば、要旨はゴシックで書いて、本文は明朝体、図や表はメイリオとか)。強調したい文章は下線を引いたり、ボールドにしたり、いろいろやり方はあるかと思います。ただし、強調部分は多すぎないように注意しましょう。

4) 申請書の項目に沿って順番に書く
 科研費の審査員をやってみるとわかりますが、これを守らない人が結構多いのです。まず申請書の上覧にある書くべき内容の項目を本文に題名として列記します。申請書は、それに沿って忠実に書くことを徹底しましょう。最初に[概要]を10行以内に書き、あとは申請書に要求された項目の順番に沿ってきちんと書くだけで、審査員受けは間違いなく良くなります。審査員の気持ちを察しながら心を込めて書きましょう。

5) やる気をみせるために申請書は空白を少なくする
 空白の多い申請書は評価が低く、採択になることはありません。どんなことがあってもこの申請書を通すのだという申請者の強い思い、パッションが大事です。申請者の「熱意」と「情熱」を伝える必要があります。気持ちのこもった申請書は空白が多くなることはありません。文字の大きさは最低11サイズで12サイズくらいでもいいと思います。空白のない、そうかと言って狭い行間に小さい字(11サイズ未満)で書かないように、とにかく審査員(審査中は相当な疲労あり)が読みやすい構成を心がけましょう。

6) 1ページに1つは図または表を挿入する
 文章ばかりの申請書は審査員が読みづらいため採択されません。逆に文章が無くて、図や表ばかりの、いわゆる中身のない申請書も採択されにくいです。文章の中に挿入する形で1ページに1つくらいの簡易な表または図を挿入するとグッと引き締まった申請書になります。特に、①研究の仮説やアイデアの基盤になる図、②年度ごとの経時的研究概要の図または表、③研究構成メンバーの役割分担に関する図の3枚は必須といえます。

7) 研究業績欄はできるだけ沢山の英語論文や特別講演などの業績を書く
 審査員の中には、まずは研究業績をみてから申請書を審査する人も大勢います。研究業績欄で「コイツ出来る!!」と思わせたらしめたものです。高い評価が得られ、採択される確率はグッと高まります。
基盤研究に応募する際に、研究業績が乏しい代表者は、採択される確率を上げる工夫として、豊富な研究業績のある先生に是非とも分担者として参加していただきましょう。一番大切なことは、科研費のテーマとなる分野の英語論文を普段からしっかり書き続けることは言うまでもありません。

8) 準備期間は長ければ長いほど良い
 科研費申請書の準備期間は、研究テーマとなるアイデアを練る期間も含めて、長ければ長いほど有利です。短期間で申請書を書こうとする方が多くいますが、採択されるための申請書作成は短期間では無理です。考えてみれば、たった数枚(肝心な部分は4枚ほど)の申請書を書くだけで、採択されたら多額の研究費が国民の税金から支払われるのです。手術と同様に成功するためには入念な準備と日頃の鍛錬が重要なのです。努力なくして成功なしです。幸運の女神は入念な準備をしてかつ慢心(油断)しない人に微笑みます。

9) 研究が計画通りにいかない時の対処方法は必ず明記すること
 欠落すると減点対象の項目になっているにも関わらず、これを書いていない申請者は結構います。Aプランで計画したけど、うまくいかなかった場合のBプランやCプランについて簡潔に書きます。他のプランがない場合は、研究過程で予想される障害や問題を箇条書きで列記し、その対策を書くだけで及第点が貰えます。ここを減点されるのは本当にもったいないの一言です。

10) 何度も推敲し、高知大学ご指名の先生からチェックしていただく
 わかりやすいかつ熱意の伝わる申請書かどうかを何回も確認し、推敲を重ねましょう。そして最も大切なことは、申請前に必ず高知大学ご指名の科研費獲得経験豊富な査読者の先生に自分が作成した申請書をチェックしていただくことです。私の経験ではこのチェック過程が最も重要で、格段に申請書の質が向上するだけでなく、次の優れた申請書作成にも繋がります。このチェックを受けながら、研究者としても少しずつ成長していきましょう。

おわりに

 科研費獲得に関して大した実績の無い人間が偉そうなことを書いてすみません。恥ずかしながら、米国留学時代にNEDOグラント(2000万-3000万円クラス)を代表で2度獲得した経験はあるものの、科研費獲得の実績が無いまま国立大学の外科教授になってしまいました。このコンプレックスを乗り越えようと 2006年4月に高知大学に参ってからは精進したつもりです。その結果、2007年4月から2018年4月までの間に科研費(基盤研究C)を4度、AMEDを1度、代表者でいただく幸運に恵まれました。自分が苦労したからこそ皆さんの気持ちも良くわかります。多忙な外科医が科研費を獲得することは本当に大変です。だからこそ獲得した時の喜びは「飛び上がるほど嬉しい」のです。皆さんに是非ともその喜びを味わって欲しいという願いを込めて本稿を仕上げました。
 かつて「科研費申請書は書けん」を地で行っていた私ですら科研費を獲得できました。私に出来たことは皆さんでも出来ます。大いに気張って今日から次回の科研費獲得に向けて挑戦していきましょう。来春の成果を楽しみにしています。