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コラム -医療情報提供-

できてしまった傷跡、目立たなくするには?

 傷跡が目立つ場合、「赤く盛り上がる、いわゆるミミズ腫れ」、「白く平らだが、幅が広い傷跡」、「引きつれを生ずる」、「色素沈着、色素脱出のように色の違いが目立つ」、「表面がテラテラと光る」、「傷の合わせ目が段違いになる」など、色々ありますが、ここで特に取り上げたいのは、「赤く盛り上がる、いわゆるミミズ腫れ」の状態です。
 いったん治ったように見える傷跡が、数週間して赤く盛り上がっていわゆるミミズ腫れのようになることがあります。これは線維組織が過剰に生産されて、表面に目立ってきたものです。医学的にはこれを肥厚性瘢痕と呼んでいます。余分につくられた線維組織が、傷がおちつくとともに、だんだんと吸収されていくため、ほうっておいても半年から1年で自然に平らに白くなってゆきます。この、自然に軽快することが肥厚性瘢痕の特徴で、反対にいつまでたってもよくならず、増えつづけていくのがケロイドと呼ばれるものです。
 ケロイドの特徴は「治癒傾向をみせない」、「怪我などの原因がなくても自然にできることがある」、そして決定的な違いとして「周りへのひろがり方」があります。ケロイドは、たとえ小さくても、境目から周りの健常部へ赤く染みだしていきます。
 典型的な場合は別にして、肥厚性瘢痕とケロイドをはっきり区別することは困難で、原因や治療法もほぼ共通しています。

 まず、手術しない方法(保存的治療)についてです。
 飲み薬ではトラニラスト(リザベン®)が有効であるとされています。これは抗アレルギー剤であり、ケロイドや肥厚性瘢痕の組織中にある各種炎症細胞が出す化学伝達物質を抑制することにより、痒みをはじめとする自覚症状を抑え、さらには病変自体を沈静化させると考えられているものです。また漢方薬の柴苓湯が使われることもあります。
 塗り薬として効果のあるものにはいくつかあります。炎症を抑える目的でのステロイド軟膏・クリームや、非ステロイド系抗炎症剤、ヘパリン類似物質であるヒルドイドソフト軟膏®などです。現在のところ、塗り薬だけで治療することは難しいのが現状です。
 テープ治療として最も多く利用されているものには、ステロイドのテープ(ドレニゾンテープ®)や、シリコンジェルシートがあります。シリコンジェルシートは、サポーターなどによる圧迫療法に対して、非圧迫療法として使われています。ジェルシート自体に粘着力があるため、ケロイドにぴったりくっつき、洗うことによって繰り返し使うことができます。
 他に、ステロイド(ケナコルト®)をケロイドに注射することがあります。赤みや盛り上がりは著明に減少しますが、効果が強すぎるとかえって凹んだ瘢痕になることがあります。塗り薬と同じく、ステロイドであるため、毛細血管の拡張が生じることがあり、周囲の皮膚の菲薄化が生じることもあるのが欠点です。また硬い瘢痕の中に注射するため、痛みがあり、女性ではステロイドの影響で生理不順が生じることもあるため注意が必要です。

 次に手術する方法についてです。
 ひきつれ(瘢痕拘縮)の原因になったり、身体の目立つ所で醜状が問題となったりすれば手術の適応となります。しかし、ケロイドは再発しやすく、前よりさらに大きなものになってしまうことがあるため、できる限り再発しないような縫い方の工夫をし、さらに術後の放射線治療を行います。
 術後の放射線治療(電子線照射)は線維芽細胞の異常な働きを抑える目的で使用します。もちろん放射線であるため、将来的に発癌のリスクが増える可能性は否定できませんが、この治療がはじまって100年が経過する現在、発癌の因果関係がはっきりと証明された報告はほとんどありません。

 外科的治療および放射線治療で一度は完治したとしても、術後から局所の皮膚伸展を繰り返していれば、やはり再発することもあります。よってシリコンジェルシート、軟膏、圧迫療法などを続けていただく必要があります。
 目立たない傷跡を目指すには、正しい創傷処置をした上で、より早期から瘢痕の治療を開始することが重要となります。傷跡が気になる場合は、形成外科のある医療施設への受診をお勧めします。


◎ 著者プロフィール
氏名:矢野晶子(ヤノ アキコ)
所属:高知大学医学部附属病院 形成外科
役職:特任助教

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