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コラム -医療情報提供-

脳動脈瘤の脳血管内治療(コイル治療)

 脳動脈瘤が見つかるケースには、それが破裂し、くも膜下出血で救急搬入された際に見つかる場合と、頭の検査で偶然発見される場合の二つがあります。今回は、特に「くも膜下出血」の場合についてお話しします。

 最近、脳卒中(医学的には「脳血管障害」のことを指し、脳に起こる病気の総称)と言えば脳梗塞、というイメージが先行していますが、同じ脳卒中の一つに「くも膜下出血」があります。
 くも膜下出血は突然の激しい頭痛で発症し、今の時代でもおよそ三分の一の方が命を落とされる怖い病気です。その原因のほとんどが、脳動脈瘤の破裂によります。

 脳動脈瘤ができる原因は明確にはなっていませんが、高血圧や血流による血管壁へのストレス、喫煙、遺伝などを原因として生ずる動脈壁の脆弱性が関与していると言われています。破裂した脳動脈瘤は、その出血が固まり、瘡蓋のようになって破裂した部位を覆い、一時的に止血されています。この間に救急車で病院へ運び込まれることになります。
 もちろん、最初に出血した際の衝撃で脳が強く障害された時は、救命もままならなくなります。何とか病院へたどり着くことが出来れば、私達、脳神経外科医の出番となるわけです。

 くも膜下出血はCT(放射線で脳を撮影)で診断します。MRIでも診断できますが、画像を見慣れていないと専門家でも判断に迷うことがあります。CTでは特に、出血の所見がわかりやすいと言えます。
 くも膜下出血があれば、次は破裂した脳動脈瘤を探します。造影剤を注入してCT を撮影したり、MRIで脳動脈瘤を探したりします。脳動脈瘤は一つであることが多いですが、時には複数の脳動脈瘤が見つかることもあります。
 中には脳動脈瘤が見つからない時や、血管が細くなり解離しているのが見つかる事もあります。

 破裂した脳動脈瘤は、最初の6時間までは高確率で再破裂しやすいため、降圧薬で血圧を下げ、鎮静薬や麻酔薬を使用して対応します。その後、3 日以内に脳動脈瘤の治療を行うのが一般的です。
 破裂した瘤を治療できなかった場合、半数以上の方が再破裂で命を落とされます。
 また、くも膜下出血のもうひとつ大きな合併症は、発症後4日目からおよそ2週間の間、脳血管が縮むという脳血管攣縮という現象が起こります。成因ははっきりわかっていません。破裂した瘤の近くの血管が縮むため、(生体の防御反応(破裂した瘤に血流を届きにくくさせて再破裂を防ごうとする)と考えられています。)そのままでは脳梗塞を起こしてしまう可能性があります。

 治療は、たくさんの点滴をして、血管を広げる薬や、血圧を上げる薬(昇圧薬)を使って行いますが、そのためにも破裂した瘤を治療しておくことが前提になります。この血管攣縮で脳梗塞となり社会復帰できなくなる方もおられます。脳血管攣縮は20%の方に起きますので、今でも集中治療が必要となっています。

 脳動脈瘤の治療ですが、大きく二つの治療方法があります。
 一つは従来の開頭手術であり、破裂した瘤の根元をクリップで挟む治療です。瘤の入口をクリップで挟むため、破裂した瘤に血流が入らなくなり、将来的にも血管の内側の膜がくっつき修復されるため、より確実な方法ではあります。ただ、手術による侵襲は大きく、体力もかなり使います。
 また、くも膜下出血で衝撃を受けた脳を持ち上げるようにして脳血管のスペースをつくるため、脳表面が挫滅したり、静脈性の脳梗塞を起こしたり、血管を触ることで脳血管攣縮が強く起きることもあります。場所によっては頭蓋骨を削ったり、血管をつなぐバイパス手術を行って治療することもありますが、やはり侵襲度は高いと言えます。

 一方、近年の医療技術の進歩により発達してきたのが、脳血管内治療です。
 文字通り、血管の中から治療する方法で、カテーテルというビニール製の軟らかい細長い管を破裂した脳動脈瘤の中に入れて、この細い管の中から、専用のプラチナ製のコイルを脳動脈瘤の中に充填します。コイルが入りきらなくなるまで詰めると、血流が脳動脈瘤の中に入らず、再破裂を防ぐことが出来るという方法です。
 管は足の付け根の動脈や腕の動脈からから入れて、脳の中まで管を誘導してゆきます。痛みは管を入れる時の穿刺の時だけですので、開頭せずに行えるため、局所麻酔で行う施設もありま す。
 脳を触らずに治療するため、開頭手術に比べて侵襲が少ない事はもちろんですが、先ほどお話した脳血管攣縮が起きにくいというデータもあります。
 ただ、直接破裂した瘤をみているわけではなく、造影剤を使い、放射線を使用して透視しながら行いますので、造影剤が使用できない腎障害の方、アレルギーの強い方はこの方法では治療できませんし、血管の中を管が入って行きますので、血管壁の血栓が剥がれて脳に飛ぶと脳梗塞になりますし、そもそも体にとっては異物ですので、カテーテルに血栓がくっつき、これが剥がれて脳へ飛んだ場合も脳梗塞になります。
 コイルを入れた瘤は、血液と一塊になって固まりますが、入り口はクリップのように閉じられていませんので、時間とともにコイルが圧縮されて隙間が生じることがあり、再度治療が必要になることもあります。
 また、瘤の形状によりコイルが留置できない場合や、脳動脈瘤が血管を巻き込んでいる場合には、血管を閉塞し脳梗塞になってしまうためこの方法では治療できません。

 血管内治療の経験の積み重ねにより、これらのリスクは減ってきていますし、機器の進歩により、より難しい形状の瘤にも対応出来るようになってきています。技術的には、治療時に風船を瘤の近くで膨らませてコイルをより充填させたり、コイルを安定させる事ができるようになっていますし、コイルそのものも色々な形状のものが作られています。
 少し固めのコイルで、長期的にコイルが縮むのを防いだり、入り口の広い瘤にも安定してコイルをいれることができるようにしたものや、複雑な瘤の形状にフィットするように外へ広がるような形状記憶を持たしたものや、挿入後にコイルが少し膨らむようなジェルを含ませたもの、吸収糸を巻きつけたもの、小さな瘤にも挿入できる軟らかい(絹豆腐にも刺さらない)もの、わずかな隙間をみつけて入り込むようなコイルなど様々な形状のコイルが開発され使えるようになっています。
 破裂した瘤にはまだ使用できませんが、入り口が広く、血管を巻き込むような瘤には、ステントという網の目の壁をした筒状の形のものを血管に留置して、瘤をコイルで充填する方法も行われています。来年には、コイルを使用せずに、ステントだけで治療する方法も認可される見通しであり、まだまだ進歩、改良が進んでいる治療法です。

 両者の成績に関しては、それこそ一長一短ですが、2002 年に欧州で発表されたISATという論文をきっかけに、脳血管内治療は急速に広まりました。その内容は、破裂脳動脈瘤の治療では、コイルで治療したグループがクリップで治療した グループよりも治療後の状態が良かったというものです。
 その後の長期成績では、再治療、再破裂はコイル治療の方が多いという結果もでていますが、現在の欧州では、ほとんどコイルでの治療になっています。日本では、コイルの治療が もちろん増えてはいますが、まだ3 割ほどです。
 その要因としては、コイルで治療をする脳血管内治療専門医がまだ少なかったということもあります。この10年で専門医も増えてきましたので、今後はどちらの治療も選択できる様になる と思いますし、ならなければいけないと思います。
 高知県内の各救命センターにも脳血管内治療の専門医が常駐する様になりましたので、どこでもコイルによる治療が受けられる様になったと思います。

 どちらの治療が優れているというものではなく、患者さんの全身状態、脳動脈瘤の形状などを考え、治療法を選択すべきと思います。
 敢えて区別をするのであれば、くも膜下出血となった破裂脳動脈瘤はコイル治療で、未破裂脳動脈瘤は手術可能な場所であればクリップを選択してはどうかというのが私見です。脳動脈瘤では破れる、破れないで全く状態が異なり、目的も異なるからです。
 未破裂脳動脈瘤では、患者さんは破裂しなくなることを望まれて治療を受けられると思いますので、理論的に脳動脈瘤の入り口が閉鎖できるクリップでの治療が理想と思います。
 一方、破裂した場合、まずは救命、そして出来る限り後遺症が残らない様に治療してゆくには、両者の良いところを選んで治療を組み立てる複合的な治療を選択する事も必要と思います。
 急性期に手術で体力を消費せずコイルで治療をし、脳血管攣縮の厳しい時期を乗り越える、その後、コイルが圧縮されて再発して来る様であれば、コイルの追加治療もしくは、クリップでの追加治療をするという選択もあります。

 治療法の選択肢が増えるということは、患者さんにとっても、治療する側にとっても良いことです。最近はインターネットなどで一般の方もたくさんの情報を得ることができますが、専門的な、特に医療機器の進歩は以前とは比べ物にならないくらいのスピードで進化していますので、私たちも情報に耳を傾け、より良い、より安全な治療を提供出来る様にしていきたいと思います。


◎ 著者プロフィール
氏名:福井 直樹(フクイ ナオキ)
所属:高知大学医学部附属病院 脳神経外科
役職:講師

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