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コラム -医療情報提供-

傷が小さく痛みの少ない胸部外科手術

・「胸部外科手術」とは?
 胸部は、中心に心臓があり、左右に肺があります。心臓や肺の病気の治療のために、様々な手術による治療が行われています。
 本日は、癌の中で最も死亡数が多く、治療の中で手術が重要な役割を果たす肺がんを治療する肺がん根治手術について紹介致します。

・肺がんの治療の中での手術治療の役割
 病気を治す力、すなわち「根治性」の観点から、かつては病気を残さず取り除くという意味で大きい手術がもてはやされていた時代がありました。
 確かに手術だけで治癒できるケースもありますが、比較的進行した癌の治療においては手術と抗癌剤による薬物治療、放射線治療、免疫療法等の治療を組み合わせたいわゆる「集学的治療」の重要性が増しています。先に手術をしてから抗癌剤の治療を追加する、あるいは逆に薬による治療を行った上で、小さくなった病巣を手術で切除することも行います。
 病状によって複数の治療法を正しい順番で組み合わせることで、相乗効果を期待します。

・胸部外科における低侵襲手術とは
 お腹の手術で、「腹腔鏡下胆嚢摘出術」という、小さい傷のみでお腹の中の胆嚢と呼ばれる臓器を切除する手術をご存知の方も多いと思います。この手術が普及しはじめたのは約20年前ですが、このような小さい傷で行う手術の延長上に、肺がんの低侵襲手術、すなわち胸腔鏡手術が発達してきました。

・胸腔鏡手術の難易度
 胸部の血管は太いので、お腹の手術に比べて技術的なハードルが高く、この手術の普及には時間がかかりました。
 胸腔鏡手術で用いる器具は、お腹の腹腔鏡手術で用いるものよりも先端サイズが半分程度に短いものを用います。このためテコの原理で、術者が手元で大きく開いても道具の先端は小さく精密に開きます。

・胸腔鏡下手術の修練の実態
 我々胸部外科医が胸腔鏡手術を習得するまでに、いきなり実際の患者さんが練習台になってしまうようなことはありません。
 我々は、医師になってから胸部外科医になるまでの間に、少なくとも7年間のトレーニングを積みますが、胸腔鏡手術を習得するには、道具を専用のものに持ち替えてさらにトレーニングを行います。本物の胸腔鏡の道具でいつでもトレーニングできる環境を大学病院内に作っています。
 はじめは小さなビーズや輪ゴムを扱うことからはじめ、摘出された臓器、動物生体によるトレーニングを経て、指導医の指導下に比較的簡単な手術の実践に移ります。
 最近、手術に関する医療事故が社会問題になっています。私共の施設では毎週15人以上の外科医師が集まって手術の報告と再検討を行うなど、安全な手術治療を提供できるような組織づくりをしています。

・胸腔鏡手術のメリット
 昔ながらの手術と比較して、手術から退院までの日数が平均3日短縮して、手術から7日程度で退院できるようになりました。血液検査上も実際に身体にかける負担は少ないことがわかっています。
 ただし、そもそも手術は癌を治すために行うものですので、早く回復出来ても、すぐに癌が再発するような手術ではいけません。私共の施設では、胸を開けて行う手術と同等以上の手術が出来ることを条件に胸腔鏡手術を行っています。
 胸腔鏡のカメラは一方向から観察しますので見えにくい「死角」は発生します。手術の品質が保てない場合には胸腔鏡手術から開胸手術に切り替えて充分な手術を行うことも躊躇しません。

・大学病院としての新しい試み
 小さい傷のみで行う胸腔鏡手術では、その小さい傷をどこにつけるかによって、手術の難易度が変化します。私のところでは、2013年秋に開発して、報道各社にも取り上げていただきました「プロジェクションマッピング」を応用した手術支援技術を開発して使用しています。
 肺がんそのものや、手術で処理する必要のある血管の位置を患者さんの身体の表面に映し出して、一番良い位置に小さい傷を作って身体の中に侵入していきます。これによって先ほど申し上げた「死角」がほとんどなくなり、よりよい手術治療ができるようになりました。

・皆様へのメッセージ
 胸部外科の低侵襲手術、とくに胸腔鏡による肺がん根治手術は、体力のない高齢者の患者さんにも、寝たきりにならずに早く社会復帰していただける手術治療です。もし肺の手術を勧められました折には、ぜひ勇気を持って治療に望んでいただきたいと思います。


◎ 著者プロフィール
氏名:穴山 貴嗣(アナヤマ タカシ)
所属:高知大学医学部 外科(ニ)
役職:講師

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