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コラム -医療情報提供-

超急性期脳梗塞の治療 -drip-ship-retrieve-

 脳卒中とは脳梗塞・脳出血・くも膜下出血を総称した呼び名ですが、その7-8割を占めるのが脳梗塞です。近年、脳梗塞における血行再建治療が大きく進歩し、注目を浴びるようになってきています。

 脳内の血管が詰まると脳梗塞となります。しかし、完全に細胞が死ぬ前に脳血流を再開させると、その領域の神経細胞は完全または部分的に回復します。
 以前までの脳梗塞治療は効果に乏しく、脳外科手術も無効であることから、“脳梗塞は誰が治療しても結果は同じ”と言われていました。
 状況が変化し始めたのは、2005年に認可されたtPA(組織プラスミノーゲンアクティベータ)という薬からです。この薬は脳血管に詰まった血栓を溶かす作用があり、脳梗塞発症急性期に投与することによって患者さんの予後を良くするということで、“脳梗塞に効く初めての薬”と大きな話題となりました。
 しかし、この薬は合併症として脳出血を発症しやすいこともわかっており、投与するためには、発症4.5時間以内までという厳しい基準が課せられています。

 脳卒中が増加している理由として、生活習慣の変化による糖尿病や脂質異常症の増加が考えられます。 都道府県別に脳卒中による死亡率をみると、男女とも東北地方や北関東地方で高く、西日本で低い傾向が認められます。全国平均でみると、男性の死亡率は女性の約1.8倍です。
 脳卒中は、介護が必要となる原因の第1位です。要介護度が高くなるほど脳卒中の割合が増加し、寝たきりを含む重い介護を要する原因の約3割を占めます。
 また、脳卒中の入院期間はがんや他の循環器疾患に比べて長く、男性で2ヵ月半、女性では4ヵ月近くに及びます。特に高齢者に多く、重症度が高かったり、女性の場合は介護者が身近にいないことが多いため、入院期間が長くなっています。
 そのため、脳卒中の国民医療費は全体で約1兆7千億円に上り、そのうち70歳以上で約1兆円を占めているのです。このように患者さんの社会的負担の面からも、脳卒中の予防と治療は重大な課題です。

 さて、tPA静注療法に引き続いて登場したのが血管内手術です。
 これはtPAを投与したあとに、それでも溶けない血の塊に対して、カテーテルという細い管を病変まで誘導し、直接血栓を回収するという治療です。
 ここ数年で色々な形の機械が急激に開発されており、昨年7月にはステントという金網型の血栓回収機械が登場しました。これは血栓回収率が約9割という非常に良い成績を出しており、今後の治療は大きく前進すると期待されています。

 その一方で、最も大事なことは脳の血管が再開通するまでの時間であることもわかってきました。
 中でも最近重要な概念として提唱されているのが、drip-ship-retrieveです。Dripは点滴、Shipは救急移送、Retrieveは血管内カテーテル治療です。
 すなわち、脳梗塞になったらまず救急車で脳卒中診療ができる近くの病院に運ばれ、そこで4.5時間以内にtPA点滴を開始します。そして点滴を受けながら、救急車や救急ヘリコプターで大きな病院に運んでもらい、必要であれば脳血管内カテーテル治療を受けます。

 急性期脳梗塞の治療は医療の世界の中でも、最も急速に進歩している分野です。繰り返しますが、治療において最も重要なことは、1分でも早く脳梗塞を疑って受診するということです。脳梗塞の初期症状はしゃべり難さや手足の麻痺、歩行時のふらつきなど多彩です。
 何かおかしいなと思ったら、脳梗塞を疑って早めに受診しましょう。

     

◎ 著者プロフィール
氏名:上羽 佑亮(ウエバ ユウスケ)
所属:高知大学医学部 脳神経外科
役職:助教

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