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コラム -医療情報提供-

乳がんの手術

 国内では年間約6万8千人の女性が乳がんになっており、日本の女性で最も多いがんです。しかし、乳がんで亡くなる女性は他のがんよりは少なく、大腸・肺・胃・膵臓に次いで5番目です。

 発症年齢は胃・大腸・肺などの他の臓器のがんは65歳以上が大半を占めていますが 乳がんは65歳未満の働く世代が2/3を占め、適正な治療を受けると治る人が多いがんです。そこで、がんを克服した後のサーバイバーとしての長い人生を考慮したものでなければなりません。

 乳がんの治療というと筋肉ごと乳房と腋の下のリンパ節をごっそり取って肋骨が浮き出てしまう乳房全摘をイメージされますが、この手術が完成したのは130年前です。
 現在、先進国では乳がんが広く認知され、マンモグラフィ検診が普及し、当時とは比べ物にならない小さながんが大半を占めています。また、マンモグラフィ、超音波、MRIなどの画像検査が進歩し、安心して乳房を残すことができます。更に、放射線治療が進歩し、乳房にわずかに残ったがんをしっかりと叩くことができます。
 その他にも女性ホルモンを抑えるホルモン療法、ハーツーという再発危険性の高い乳がんに対する抗ハーツー療法や開発が進む薬物療法の進歩により転移再発が減って、乳がんの死亡率が減少すると同時に、手術前の薬物治療で大きながんを小さくしてから乳房温存術を行う、また、温存した乳房内の再発や新たな乳がんの発生も抑えることができるようになりました。

 また、乳がんでは腋の下のリンパ節を広い範囲で切り取る腋窩リンパ節郭清という手術が長く行われてきましたが、この手術の後は不快な症状が起きることが知られています。
 現在では「センチネルリンパ節生検」という手術が行われるようになっています。乳がんから最初にリンパが流れ着くリンパ節だけを切り取って顕微鏡で検査し、転移がなければ腋の下のリンパ節をそれ以上は取らない手術です。
 高知大学医学部附属病院では、乳房温存とセンチネルリンパ節生検でリンパ節に転移がないことが確認できた患者さんはほとんどが手術の翌日には退院できています。
 ただし、現在でも4割の患者さんは乳房全摘を受けています。がんの広がりが広く乳房を残すことができない、遺伝性乳がんで残した乳房に新しい癌ができる危険性が著しく高い場合などです。そのような場合も、健康保険を使って乳房を再建することができる時代になっています。

 がん治療は総合力です。
 乳がんに対する認知度の向上、検診による早期発見、正確な画像診断、安全な放射線治療、乳がんの生命予後を向上させ温存乳房や薬物治療、外科手術の進歩--。
 これらを過不足なく正しく組み合わせて治療することで、乳房温存やセンチネルリンパ節生検など、身体への負担が少なく、治療後の生活の質を保つことのできる小さな手術で乳がんを治すことができるのです。


◎ 著者プロフィール
氏名:杉本 健樹(スギモト タケキ)
所属:高知大学医学部 外科(一)
役職:准教授

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