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コラム -医療情報提供-

定位放射線治療

 現在でも日本では、がん治療といえば手術を第一に思い浮かべる人が多いと思います。最近ではかなり放射線治療のことを知っている患者さんが増えましたが、十数年前には、放射線治療に紹介される患者さんは「手術できないからもう治らないがん」だと思っている方がほとんどでした。
 今回お話しする「体幹部定位放射線治療~特に早期肺がん」は、根治を目指す、手術に代わる治療法として注目されています。

 「薬を〇グラム飲む」というように、抗がん剤など薬の単位がg(グラム)であるのに対し、放射線治療の単位はGy(グレイ)といいます。肺がんの放射線治療の方法は大きく分けて「通常照射」と「定位照射」に分かれますが、まずは通常照射についてお話します。
 様々ながんを治すのによく使われる放射線の量は、1回あたりは2Gyと少なく、1日1回治療し、25~35回・トータルで50~70Gy程度になります。1日1回10分くらいの治療を約2ヶ月かけて行います。
 これに対して定位照射は、1回あたりに8~12Gyという大線量で4~8回・治療期間1~2週間で治療するものです。

 体にメスで傷をつけることなく治療ができれば良いというのは、誰でも考える事だと思います。放射線治療で「切らずに治す」のには、最新の治療機とそれを維持する最新の技術が必要です。

 放射線治療で問題になるのは「正常な肺に放射線があたること」です。正常な肺に放射線があたりすぎると「放射線肺炎・放射線肺臓炎」が起こります。
 普通の肺炎はウイルスや細菌感染によっておこるので抗生物質を飲んで治しますが、この「放射線肺炎」は放射線に対する「アレルギー」のようなもので、かかってしまった場合、「ステロイド」というアレルギーを抑える薬で治療する必要があります。
 それでも治りが悪い場合、呼吸困難などで酸素吸入が必要になる場合もあります。

 放射線肺炎をできるだけ起こさないように「がんを狙いうち」して「正常な肺を守る」照射方法が、定位放射線治療という技術です。
 呼吸によって腫瘍の位置は動きます。時には2cm以上も動くことがあります。
 従来の放射線治療の場合は、動くと予想される範囲を広めにとり、その部分に放射線をあてて治療をします。しかし、定位放射線治療の場合は治療前にCTを撮像して患者さんの腫瘍の動きを把握し、一定の位置に腫瘍がある時に放射線を照射します。
 腫瘍の位置が治療中に把握できるようになったため、このような治療が可能になりました。

 治療の手順としては、まず、準備としてCTを撮像します。いろいろな呼吸状態を把握するために通常のCT検査より時間がかかります。30分から1時間くらいかけて「吸気=息を吸って止めたところでの撮影」「呼気=息を吐いて止めたところで撮影」「自由呼吸=息を止めずに」など細かく調べます。

 放射線治療はコンピュータ治療のため、そのCTをもとに1週間くらい時間をかけて「最適な照射方法」を計算し、計算どおりきちんと放射線が照射できるか治療機の動作確認などを行います。

 その後ようやく治療開始となりますが、放射線は当たっても熱さも痛さもありません。通常30分間くらい治療機のところで動かず寝ていていただければ、1回の治療が終了します。その際「息をそこで止めてください」という指示に従って、何回か息を止めてもらいます。やっていただくことはそれだけです。
 治療の最中は、腫瘍の位置が照射範囲内にあるのを確認して、放射線を照射しています。体への負担が少ないので、外来通院でも治療は可能です。1日1回・4回~8回の照射で治療は終了です。

 手術と違って切って取り除くのではないので、すぐに腫瘍の「かげ」が消えることはありません。治療後数ヶ月のところでCTを撮像すると腫瘍がちいさくなっていることがわかります。治療効果は「局所制御率」で80~90%となっており、これは、手術とほぼ同等の成績になりつつあります。
 適応となるのは小さな(3cmまで)肺がん、小さな転移性肺腫瘍(大腸がんなど)です。もう少し大きながんの場合は、肺のダメージが大きくなり、治療の後から重篤な放射線による副作用の肺炎を起こす危険性が高くなるため、おすすめしません。

 現段階では手術ができる人には手術をお勧めすることになっています。今までのデータはほとんど手術ができない患者様を対象にしたデータです。それでも良い成績が出始めています。肺に癌が見つかったとき、「手術ができない」、「手術が怖いからと治療をあきらめる」のではなく、「定位放射線治療」という選択肢もある可能性がありますので、ご相談ください。


◎ 著者プロフィール
氏名:小林 加奈(コバヤシ カナ)
所属:高知大学医学部附属病院 放射線科
役職:特任講師

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